米英仏とロシアの対立と日本
昨日(2018/04/15)、シリア国内の化学兵器関連施設への攻撃は、冷戦終結後の新たな対立を深めることとなった。
シリア時間の14日未明に、3国によって首都ダマスカス近郊にある、化学兵器関連の施設3か所を狙ったものとされている。
これは、先日のシリア内戦での、アサド政権による反体制派への化学兵器使用疑惑に対する報復と、米英仏とロシアの対立があるとされる。
米英仏
アメリカ
約5年前にもアサド政権による化学兵器使用疑惑があったが、その時は軍事行動は起こさずに、「アサド政権に化学兵器廃棄」という、ロシアによる提案を受け入れた。
当時の米オバマ政権により判断であった。
トランプ大統領は、オバマ前政権のやることなすことに反対する立場であり、これも引き金になったのではないだろうか。
その他、アメリカとしては、これ以降に発生した、ウクライナ侵攻やシリアアサド政権への軍事介入などの、ロシアの行動にくぎを刺したかった。
今回の攻撃は、地中海に展開している海軍の駆逐艦から巡航ミサイル「トマホーク」あるいは、戦略爆撃機B-1による空爆で、ミサイル約105発が発射されたものという。
攻撃地は首都ダマスカスやホムス近郊の化学兵器研究センター、生産・貯蔵施設など、3か所とされている。
今回の攻撃に対してトランプ大統領は
・アサド政権による化学兵器の開発を数年間は遅らせることができる。
と説明し、ツイッターには
と投稿している。
国防総省も、民間人の被害はないと報告し、シリアの反撃もないと説明し、「目的は達成した」としている。
また、シリアの化学兵器使用に対し、「明確で最も大きいメッセージ」と今後の化学兵器使用を控えるように強調した。
英国・フランス
イギリスは、最近のロシア元スパイ暗殺未遂事件で、ロシアとの対立は決定的となっており、外交官の退去まで発展している。
メイ氏によると
フランス政府は14日に、アサド政権による化学兵器の使用を結論づける報告書を公開している。
これは、現場で使用された化学物質を直接分析したわけではなく、被害を受けた人たちの症状や戦況からの根拠である。
窒息・過剰な唾液の分泌の症状、周辺から緑色の煙が発生したことなどから、窒息性の化学兵器の特徴的な症状であると特定している。
しかし、 フランスは今回の攻撃に対し、事前にロシアに通告したという。
決定的な対立は避けたかったのだろう。
ロシア
一方、プーチン大統領は
今回の攻撃は「主権国家に対する侵略行為と非難し、国際法に違反する。」と主張している。
化学兵器禁止機関(OPCW)の調査を待たずに、軍事行動へ出た米英仏に対し糾弾している。
しかし、ロシアはウクライナ侵攻から、各国の制裁を受けており、今回のイギリスでのスパイ暗殺未遂事件に、なんらかの化学兵器を使用したとの疑惑で、ますます国際社会から孤立を深めていた。
ロシアの中東での立場は、中東で唯一のロシア海軍の基地があり、空軍基地の貸与も受けている。
いまや、中東でのロシアの友好国は、イラン、シリアとなっており重要な軍事拠点となっているので、シリアをどうしても手放したくはない。
特にイランは反米的な存在で、「敵の敵は味方」となっているのではないだろうか。
しかし、中東は歴史的に見ても厄介なところであり、ロシアも下手をすると泥沼に入り込み、本当にメリットはあるのだろうか?
中国
中国外務省は、このシリア攻撃に対して
と声明を出した。
また、
と批判した。
そのうえで、
と求めている。
教科書的な声明で、少し距離を置いた発言となっており、巻き込まれたくないのであろう。
最後に
これからのシリア情勢はどのなるのか?
各国の共通の敵であった「イスラム国:IS」が倒れて、目的を失った国が対立を表し始めた。
1:全面衝突は回避
2:紛争は一段と激化
3:停戦・和平への道
とあるが、今回のトランプ大統領の発言からすると、これで一旦は「欧米による攻撃と、ロシア・中国の反撃」ということにはならずに、平時に戻るのではなかろうか。
しかし、シリア国内のアサド政権と反体制派の対立は続くだろう。
欧米の化学兵器使用を明確に認定したことから、アサド政権の存続は認めがたくなり、内戦継続による、シリアからの難民が周辺国や欧州へなだれ込むことなど、複雑に絡んでいる。
難民の受け入れに関し、欧州各国の反移民感情も増しており、過激な保守勢力の台頭も欧州各国の政治不安要素になっている。
一方、ロシアやイランはアサド政権存続を望んでおり、両者の妥協の余地は少ない。
わが日本も、米英仏への支持は当たり前であろうが、北方領土の問題を抱えており、ロシアとの決定的な対立も好ましくない。
米英仏とロシアの板挟みになっており、双方との会談を控えている日本政府はどのように対応するのか、難しい問題である。
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