伝統的工芸品「房州うちわ」
暑さのピークが過ぎ去ってはきましたが、まだまだ暑い日は続いています。
ようやく、真夏のピークは去ったような気がしますが、「エアコンをつけるほどでは、ないかな?」なんて時、「房州うちわ」で日本の夏を楽しんでみませんか。
今年は、ポータブル扇風機が大流行し、片手に持ってまちを歩く人々を多く見るようになりました。
しかし、ここは日本ですので、粋と品を兼ねそろえた日本製の「うちわ」をご紹介してみます。
日本三大うちわ
日本には、各地に「うちわ」の産業がありました。
現在、経済産業大臣指定伝統的工芸品であるうちわは、香川県丸亀市で作られている「丸亀うちわ」、京都府で作られている「京うちわ」、千葉県館山市、南房総市で生産されている「房州うちわ」であり、これらを主に日本三大うちわと呼びます。
それぞれの特徴は、うちわの柄(持ち手の部分)にあります。
香川県の丸亀うちわは、太い真竹を使って作る「平柄(ひらえ)」のうちわ、京都府の京うちわは、扇面と柄が分かれている「差し柄(さしえ)」のうちわ、千葉県の房州うちわは、細い女竹(篠竹)を使って作る「丸柄(まるえ)」のうちわです。
国の伝統的工芸品に指定されるためには、産地として実態をなしていることや、産業に100年以上の歴史があること、工芸品のほとんどの工程が手作業で作られること等、いくつもの要件があります。
今回は、首都圏に位置するものの、認知度があまり高くない「房州うちわ」について調べてみました。
産業の背景を知ると、何気ないと思っていた工芸品の重みや尊さを感じることができるのではないでしょうか。
房州うちわの歴史
まず、「房州」とは何かご説明しますと、房州とは、千葉県南部を指す地名で、現在の南房総地域(館山市、南房総市、鴨川市、鋸南町)のことをかつては「房州」と呼んでいました。
この地域でつくられているうちわなので、「房州うちわ」という名前がついたというわけです。
この房州でうちわ作りが始まったのは、明治時代初期と言われており、それまでは、良質な竹の産地として、江戸にうちわの材料となる竹を送っていたそうです。
南房総地域では、女竹(篠竹)が沢山取れ、うちわづくりに適した質だったため、うちわ問屋さんからは重宝されていたそうです。
その竹を使い、かつてうちわ作りが盛んだった地域が、現在の東京日本橋付近で、当時はうちわ問屋さんが沢山あったそうですが、現在の街並みを見ると、想像がつきません。
その後、大正12年の関東大震災で日本橋付近は大火に見舞われ、焼けてしまったうちわ問屋さん達が、竹の産地である房州に移住したことが、房州がうちわの産地として拡大する契機となりました。
うちわづくりは、漁師のおかみさんや子ども達が、家で留守番をする間に行う内職として、人気だったそうです。
全部で21工程、すべて手作り
房州うちわは、概ね21の工程を経て完成しますが、勿論、そのほとんどが手作業です。
まずは、うちわの原料となる女竹の伐採から始まります。
伐採する時期は、秋から冬にかけてであり、竹が眠っている時期に伐採することで、虫が入らなくなるなどのメリットがあるそうです。
また、うちわづくりに使える竹は生えてから3年目のものを使い、若い竹は柔らかいので、うちわの骨になるための強度が足りないそうです。
3年目の竹を選別するのには、目利きが必要とのことで、材料の確保の段階から職人さんの目が光ります。
伐採した竹は、各種寸法に切り、皮を剥き、表面を磨き、干します。
そして十分に乾いた竹を、今度は割いていきます。
竹の太さによって骨の本数は変わりますが、大体40本程度には割かれるようです。
一見簡単そうに見えますが、この均等に細かく割く作業もとても大変で、この後に続くすべての工程に影響してしまうため、手は抜けません。
割く作業が終わると、割いた竹を編み、うちわの扇面となる部分を形成していきます。
その後、扇面に和紙や浴衣地等を貼りやすくするための加工をいくつも行い、和紙や浴衣地を貼り、余分な骨を断裁して形を整え、最後に仕上げにヘリに和紙を貼って仕上げます。
心豊かに暮らす
材料の確保から沢山の工程を経て作り上げられる「房州うちわ」ですが、職人さんの思いが込められた1本は、使い手の心も豊かにしてくれそうです。
伝統的工芸品であるうちわは、どの産地でも、扇風機やエアコンの普及により、昭和初期よりも格段に生産量が減ったそうです。
先に述べたように、ポータブル扇風機も人気が出ていますので、もしかしたら、ますます産業が衰退してしまうかもしれません。
しかし、本格志向の方やエコライフを楽しみたい方は、根強く愛用しているようです。
夏の和装にはやはり竹のうちわが似合いますし、キャンプなどのアウトドアもおしゃれに楽しめますし、デスクに1本あってもかっこいいかもしれません。
和小物というと、女性用が多いイメージがありますが、男性向けの絵柄もたくさんあります。
職人さんによってセンスが異なりますので、房州うちわの種類は大小さまざま、色とりどりで、華やかなもの、爽やかなもの、渋い絵柄まで、お気に入りの1本を見つけることもお楽しみの一つです。
最後に
最後に、気になるのが購入できる場所ですが、インターネットで検索すると、通信販売も行っています。
また、産地まで訪れなくても、都内でも扱われているお店があります。
日本各地の伝統的工芸品を取り扱う「青山スクエア」には、他の産地の工芸品もそろっているので、工芸品好きなら1日いても飽きないと思います。
伝統的工芸品を使うことが、地方の産業の応援にもつながるかもしれません。
まだまだ9月も続きそうな残暑を、「房州うちわ」で粋に楽しんでみてはいかがでしょうか。
「日本の夏にうちわあり!」と言うのがぴったりかもしれません。
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