恋する寄生虫 著:三秋縋
寄生虫といえば、気持ち悪いイメージがありますよね。
私は東京大学の博物館に展示されていた、ハチ公の心臓のはく製に寄生した寄生虫を見てからは、「寄生虫=気持ち悪い」というイメージしかありませんでした。
東京にある寄生虫博物館なんて、絶対行くものかと思っていた私ですが、「行ってみたい」と思わされてしまった一冊があったので紹介します。
三秋縋さんが書いた小説『恋する寄生虫』です。
三秋縋(みあき すがる) : 1990年生まれ、岩手県出身の作家。ウェブ上で『げんふうけい』名義の小説も発表し、人気を博している。
「ねえ、高坂さんは、こんな風に考えたことはない? 自分はこのまま、誰と愛し合うこともなく死んでいくんじゃないか。自分が死んだとき、涙を流してくれる人間は一人もいないんじゃないか」 失業中の青年・高坂賢吾と不登校の少女・佐薙ひじり。一見何もかもが噛み合わない二人は、社会復帰に向けてリハビリを共に行う中で惹かれ合い、やがて恋に落ちる。しかし、幸福な日々はそう長くは続かなかった。彼らは知らずにいた。二人の恋が、<虫>によってもたらされた「操り人形の恋」に過ぎないことを――。
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タイトルからしてびっくりなこの本ですが、寄生虫が主人公なわけではありません。
主人公は失業中の潔癖症の青年。そして、ヒロインは視線恐怖症の少女です。
ある男の依頼で、少女の信頼を勝ち取ってくるように言われた青年が、少女に近づき、だんだんと信頼関係を築いていき、恋愛関係に発展していく物語なのですが、その恋はすべて彼らの頭の中にいた「虫」によってもたらされた偽りの恋だったというお話です。
この本は作者の頭の良さを感じさせる本です。
小説において、知識を伝えるのは非常に難しいです。
ファンタジー小説で有名なものでも、魔法や技術の説明がダラダラと続いて、結局読者にとっては「わからん」というものも多いのは、小説で読者を退屈させずに知識を説明することが、非常に難しいことが理由です。
ですが、この本はとても興味深く寄生虫について、知っていくことができる本になっています。
下手に寄生虫についての専門書を読むよりも、寄生虫について興味を持てるようになるのではないかと言うほどに詳しくわかりやすい説明ができているのは、物語の展開がうまいからとしか言いようがありません。
故あって寄生虫に詳しく、寄生虫を愛しているヒロインが語る寄生虫への愛は、すさまじいものです。
それを主人公と同じ視点に立って、「なるほど」と聞いていられるのが、この本のおもしろい点だと思います。
恋愛要素は非常に切ないもの。
こんなに切ない恋愛は読んだことがないと思えるのは、この恋が本当の恋なのか偽物の恋なのか、本人たちにも永遠にわからないという点があるかと思います。
主人公とヒロインは本人同士が惹かれあったのか、頭の中にいる寄生虫がお互いに惹かれあったのか、物語の中でもはっきりとは明言されることなく終わります。
しかも、ふたりは寄生虫の影響で傍にいると死んでしまうという切なさ満点の設定もあり、傍にいたいけど、それが本当に自分の意志なのかわからない。
しかも、傍にいたら死んでしまう。
そんな究極の謎と葛藤に包まれた愛を、ふたりがどうするのかがこの物語の肝です。
また潔癖症と視線恐怖症という、二人の生きにくさは極端ではあるものの、共感できる点が多くあります。
それを克服しようとふたりが手を取り合って、努力する様は応援したくなるものですし、恋愛物語では描き切れていないことが多い、「ふたりが惹かれあう過程」が納得できる形で、描写されているのもこの作品の魅力です。
美しい情景描写と共に、描かれる寄生虫に関する深い知識と、切ない恋物語の結末をぜひ確かめてみてください。
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